
※本記事は一般的な情報提供であり、法律相談ではありません。個別の案件は専門家へご相談ください。
副業やフリーランスのPython案件、なぜ揉めてしまうの?
結論:要件の曖昧さ・検収基準の不在・著作権の誤解に集約されます。
この記事で身につくこと
- 見積りの前提(Assumption)を固めるテンプレ
- SOW(スコープ)と検収を1枚で合わせる雛形
- 著作権/OSS/第三者素材の実務運用
- 請求と変更管理を「型」で回すチェックリスト
本記事は、現場10年(受託/委託の両面)を歩んだ筆者ふみとが、即コピペで使えるテンプレと一緒に、見積り→契約→納品のロードマップをまとめたものです。
まずは「よくある落とし穴」
- 仕様の追加(スコープ肥大):口頭の「ついでに」で納期/品質が崩れる。
- 検収の不一致:何をもって「完成」か共有されていない。
- 知財の誤解:再利用の可否、OSS義務、画像/文章の権利が曖昧。
- キャッシュフロー悪化:着手金なし/支払サイト長期/検収遅延。
- 個人情報/セキュリティ:共有リンク無管理、APIキーの雑管理。
筆者の現場メモ(ふみと)
大手でのデータ/マーケ案件で100件超に関わる中、揉めなかった案件は例外なく、Assumption・SOW(検収を含む)・変更管理が「最初から紙1枚で揃って」いました。以降は、私が実際に使っている型をそのまま共有します。
解決の全体像:見積り→契約→納品を「型」で回す
1. 見積り:式×WBS×前提(Assumption)
基本式と三点見積でブレを小さくし、WBSとAssumptionで合意形成を先に済ませます。
## 見積りの基本式
総額 = (要件定義h + 実装h + テストh + ドキュメントh) × 時給 + ツール費 + 予備10〜20%
## 三点見積(不確実性に強い)
期待工数 = (楽観 + 4×最頻 + 悲観) / 6 (※バッファ 5〜15% 上乗せ)
# WBS(雛形:コピーして使える)
- 1. 要件定義(A0): 2h
- 2. 設計(A1): 3h
- 3. 実装(B0〜B2): 8h
- 4. テスト(C0): 3h
- 5. ドキュメント(D0): 2h
- 6. 納品/引継(E0): 1h
合計: 19h(予備 15% = +2.85h)
# Assumption(前提)テンプレ
- 入力はCSV3種(列構造はfix)
- API制限:1,000req/日(キーは発注者提供)
- 個人情報は含まない(含む場合は匿名化を前提)
- 動作環境:Windows 11 / Python 3.11
- 連絡SLA:一次24h/解決48h、PRレビューは水/日
2. スコープ(SOW)と検収を「1枚」で固定
「何が成果物で、どうなれば合格か」を明確にするほど、後ろの工程が楽になります。
# Scope of Work(SOW)
## 1. 目的
- 会議資料の作成時間 60→10分
## 2. 成果物
- main.py / config.yaml / report.pdf / scheduler.md
## 3. 検収基準
- サンプル3本の出力一致(Excel/PDF)、例外はlogs/に記録
- 所要時間 ≤ 10分/回(測定条件:CPU ◯◯)
## 4. スケジュール(営業日)
- 着手:YYYY-MM-DD、納品:YYYY-MM-DD(10日)
## 5. 連絡/体制
- 週次KPT、SLA:一次24h/解決48h
## 6. 変更管理
- Change Request票で合意後、見積/納期を更新
# Change Request(変更管理)票
- 依頼日/依頼者:
- 変更点:
- 影響(工数/納期/費用):
- 対応可否/代替案:
- 合意サイン:発注/受注
3. 支払とマイルストンでキャッシュを守る
- 着手金 30–50%:要件定義〜設計の開始時に請求
- マイルストン例:M1 要件定義(20%)/ M2 試作品(30%)/ M3 最終検収(残額)
- 支払サイト:検収後◯営業日(例:15/30日)
- 遅延利息:支払遅延に対する率を明記
契約書のポイント(ドラフト例つき)
ドラフトはサンプルであり法的助言ではありません。自社事情に合わせて修正してください。
知的財産(著作権/再利用)
(1)受注者は、汎用的ノウハウ/テンプレ/共通ライブラリ(「共通部分」)の著作権を保持する。
(2)発注者は、共通部分を含む成果物を事業目的の範囲で、期間/地域の制限なく非独占的に使用できる。
(3)個別に作成されたカスタムコード/帳票/設定(「個別部分」)の著作権は、所定の代金支払完了時に発注者へ移転する。
(4)第三者ライセンス(OSS等)の一覧と条件を `THIRD_PARTY_LICENSES.txt` に記載する。
運用メモ:再利用可否は「共通/個別」で分ける。OSSの義務(表示/ソース開示等)を遵守し、依存関係はSBOMとして同梱すると後トラブルを防げます。
秘密情報/NDA と 個人情報(DPA)
# NDA(抄)
- 目的外利用の禁止/第三者提供の禁止/返却・破棄の義務
- 安全管理:暗号化ストレージ、最小権限、ログ保全
- 禁止例:個人情報のメール添付、公衆Wi-Fiでの取扱い
# DPA(覚書・抄)
* 匿名化/仮名化を原則。本人識別情報を含む場合は同意/根拠を明記
* 保存期間/削除手順、委託先の管理
* インシデント通知SLA(例:72時間以内)
保証・責任制限/受渡・検収・保守
# 保証・責任制限(例)
- 現状有姿での提供、間接損害・逸失利益は免責
- 総賠償額の上限は本件対価
- ウイルス/脆弱性対応の範囲を明記
# 受渡・検収・保守
* 検収期間:受領後7営業日(黙示検収の可否を記載)
* 修正回数の上限:例)2回(軽微修正の定義を明記)
* 保守SLA:一次応答24h/解決48h(有償/無償の範囲)
著作権/OSS/素材の扱い方
- 自作コード:非独占的使用許諾 or 譲渡を切り分ける。
- テンプレ/スニペット:共通部分として再利用可にするのがベター。
- OSS:ライセンス表記、改変の有無、ソース提供義務(GPL系)に注意。
- 画像/アイコン/フォント:商用可否、クレジット表記、再配布可否を確認。
- 生成AI素材:プラットフォーム規約/企業ポリシーに従う(規約は変わりやすい)。
# Third-Party Licenses
- pandas (BSD-3)
- numpy (BSD-3)
- matplotlib (PSF)
- requests (Apache-2.0)
備考:各ライセンス文は `LICENSES/` 配下に格納
個人情報/セキュリティ:最低限の実務
- 最小権限:共有リンクは期限つき、アクセスは必要者のみ。
- 鍵管理:APIキー/パスワードは
.env
、リポジトリに入れない。 - 暗号化:PCフルディスク暗号化、ZIPパスワード共有は避ける。
- ログ:個人情報をログ出力しない。
- 端末/ネットワーク:貸与PC優先、公衆Wi-Fi禁止、VPN利用。
→ 詳細は [内部リンク:受講前チェックリスト:PC・時間・数学の準備はこれでOK]
請求/検収を「型」で運用する
請求タイミング:着手金 → M1 → M2 → 検収 → 保守
# 請求書(Invoice)
- 案件名:〇〇自動化
- 請求額:60,000円(税別)
- 内訳:要件 8,000/実装 36,000/テスト 13,500/文書 7,000/値引 -4,500
- 支払期日:YYYY-MM-DD(検収後15日)
- 支払方法:振込(手数料発注者負担)
- 連絡先:◯◯(メール/TEL)
検収チェックリスト
- [ ] サンプル3本で一致(差分はログ提示)
- [ ] 所要時間 ≤ 10分/回
- [ ] README/運用手順の整合性
- [ ] 依存パッケージ/ライセンス表の同梱
具体的なトラブル事例と予防/対処
- スコープ肥大:図表追加が連発。
予防:SOWの図枚数を明記、変更はCR票必須。
対処:代替案(差替/次フェーズ化)+再見積。 - スクレイピング規約違反の懸念。
予防:robots.txt/利用規約/法的リスクを初回確認。
対処:API化/頻度制限/同意取得。→ [内部リンク:Webスクレイピングの法的リスクと安全運用] - 支払遅延。
予防:着手金+マイルストン、支払サイト短縮を交渉。
対処:遅延利息/停止権の明記(法務相談推奨)。 - 著作権の誤解(再利用NGと言われた)。
予防:「共通/個別」区分とライセンス条項。
対処:使用許諾の再定義、別実装の提案。
レッド/グリーンフラグ
レッド
- 口頭合意のみ/検収基準なし/着手金ゼロ
- 「とりあえずやって」「見積はあとで」
- 出所不明の画像/文章、個人情報の無制限共有
グリーン
- SOW/CR/検収/支払が1枚で整理、前金あり
- OSS/第三者素材の台帳が整備
- NDA/DPA、端末/鍵/ログの運用ルールがある
交渉のコツ:三角形の法則(スコープ・価格・納期)
- 固定するのは2つまで。1つを下げるなら、残りのどちらかを上げる。
- 値引き要望にはスコープ縮小で回答(図3→2、監視なし、保守別)。
- 成功報酬には最低保証+成功ボーナスのハイブリッドで。
すぐ使える“ひな形”まとめ(コピペOK)
- 見積書:時給×工数+予備10–20%
- SOW:目的/成果物/検収/スケジュール/変更
- Change Request:影響評価→合意
- THIRD_PARTY_LICENSES.txt:依存とライセンス
- Invoice:マイルストン請求
- NDA/DPAメモ:目的/最小権限/削除手順
- 検収チェックリスト:一致/時間/文書/ライセンス
伴走の提案:レビュー文化で「事故ゼロ運用」へ
契約/検収/知財のテンプレ運用は、質問初動と差し戻しの速さが命。無料カウンセリング/体験でレビュー頻度/基準を数字で確認し、型を持ち帰ってください。
TechAcademy データサイエンスコース(受講料:174,600円~ ※更に割引あり)

株式会社キカガク AI人材長期育成コース(受講料:237,600円~)

読者タイプ別の優先順位(旧:ペルソナ)
- 社会人(転職×実績づくり):SOW/検収/Invoiceを先に整え、社内ミニ案件で実績化。→ [内部リンク:Excel業務の自動化で月3万円:社内案件の作り方]
- 副業目的(収益化重視):着手金+マイルストン、共通/個別の知財区分を必ず入れる。→ [内部リンク:初案件獲得のための提案文テンプレ]
- 主婦/夫(在宅):非同期SLAとデータ取扱のルールを明文化。→ [内部リンク:リモートワーク前提の求人を探す方法と注意点]
今日やること(60分)
- このページの SOW/CR/Invoice/THIRD_PARTY_LICENSES を自分用に編集
- 三点見積で見積書を作り直し、予備10–20%を付与
- 各案件リポジトリに LICENSE/OSS台帳 を追加
- クライアント候補に SOWドラフト を先出し、検収基準の合意を取る
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